東京地方裁判所 平成11年(ワ)12160号 判決
原告 株式会社整理回収機構
右代表者代表取締役 鬼追明夫
右代理人支配人 藤井シュン
右訴訟代理人弁護士 大澤成美
塚越豊
菅沼一王
被告 河内繁利
被告 河内和江
右両名訴訟代理人弁護士 田中郁雄
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金一九七五万五四五七円及び内金一一九四万四九二六円に対する平成六年三月三日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、原告が、被告らに対し、日本ハウジングローン株式会社から譲り受けた消費貸借債権の返済を求めた事案である。
一 前提事実(争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実)
1 原告は、平成八年七月、特定住宅金融会社(いわゆる住専)処理を目的として「株式会社住宅金融債権管理機構」の名で設立され、平成一一年四月、現在の名称に商号変更した株式会社である。
2 旧住専である日本ハウジングローン株式会社(以下「日本ハウジング」という。)は、昭和六〇年三月二九日、被告らを連帯債務者として、以下の約定で被告らに対し金二三〇〇万円を貸し付けた(本件貸金)。
<1> 利息 年八・八二パーセント。但し、毎月返済部分については月利(年利率の一二分の一)計算、半年毎増額返済の部分については半年利(年利率の一二分の六)計算、一か月に満たない端数期間を生じた場合には年三六五日の日割計算とする。
<2> 最終返済期限 平成一七年四月七日
<3> 元利金返済方法 昭和六〇年五月七日を第一回とし、以降毎月七日限り元利合計金二〇万四二八一円宛支払い、最終返済日に残額を完済する。但し、第一回返済額は利息計算の日数の相違により、最終回返済額は利息計算の端数処理のため、毎回の返済額と異なることがある。
<4> 損害金 年一四パーセント
<5> 期限の利益喪失 被告らは、返済を六か月以上遅滞したときは、日本ハウジングから何らの通知催告を要せずして、当然に期限の利益を失う。
3 被告らは、本件貸金につき、平成二年一二月七日分まで約定とおりの返済をしたが、その後の支払いを怠った(弁論の全趣旨)。
4 日本ハウジングは、本件貸金を被担保債権とする抵当権に基づき、被告ら所有の建物につき、不動産競売申立てをし、平成四年一一月一二日、東京地方裁判所により競売開始決定を受けたが、平成六年二月一日、右建物は火災により焼失した。
日本ハウジングは、同年三月二日、前記建物に付けられていた火災保険金七六〇万円を本件貸金の弁済として受領し、これを同債権の元本に充当した。
同年六月二八日、東京地方裁判所は、右建物の競売開始決定につき、競売対象物件の焼失を理由に競売開始決定を取消す旨の決定をした。
5 平成八年一〇月一日、日本ハウジングは、原告に対し、本件貸金債権を譲渡し、被告らに対し右債権の譲渡を通知し、同年一〇月二日、被告らに対し、右通知は到達した。
6 平成一一年五月七日、原告は、被告らに対し、本件貸金債権の支払いを催告し、右催告書は同月八日、被告らに到達した(甲一〇)。平成一一年六月三日、原告は、本件貸金債権の支払いを求める本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著)。
7 平成一一年一二月一四日、本件口頭弁論期日において、被告らは、原告に対し、本件貸金につき、平成一一年三月二日の経過により、五年の消滅時効にかかっているとして、時効を援用するとの意思表示をした(当裁判所に顕著)。
二 争点
1 債務免除
(被告らの主張)
平成六年二月一五日及び同月二二日、日本ハウジングの担当者が、被告河内繁利に対し、本件貸金の内金を建物の「保険金で支払えば、債務残額は免除する」旨の意思表示をした。そこで、被告河内繁利は、同年二月二五日、右火災保険について安田火災海上保険株式会社に行き、右火災保険金を日本ハウジングに支払うよう手続をしたのである。同月三月二日、右保険金七六〇万円は日本ハウジングに支払われた。
(原告の主張)
日本ハウジングの担当者が被告ら主張のような債務免除の意思表示をしたことはない。当該保険金請求権には日本ハウジングの本件貸金を被担保債権とする第一順位の質権が設定されており、当該保険金から優先的に弁済を受ける地位にあった日本ハウジングが右弁済を受けるのは当然であって、右弁済のためその余の債務を免除するはずはない。
2 時効消滅
(被告らの主張)
原告の被告らに対する本件貸金は、商事債権であるところ、被告らは、平成六年三月二日、金七六〇万円を支払ったが、その後、五年間が経過した。
したがって、本件貸金債権は時効により消滅している。
なお、原告は時効の中断を主張するが、競売開始決定が取り消されたのであるから、右競売開始決定に時効中断効はない。
(原告の主張)
日本ハウジングは、本件貸金を被担保債権とする抵当権を有し、これに基づき、平成四年一一月一二日、東京地方裁判所により競売開始決定を得た。右開始決定は、平成六年六月二八日、競売対象物件の焼失を理由に取消された。原告は、被告らに対し、平成一一年五月七日付けで催告をし、同通知書は同月八日、被告らに到達した。その後、六か月以内である平成一一年六月三日、本件訴えを提起しているので、時効は中断している。
第三判断
一 被告らは、平成六年二月一五日及び同月二二日、被告河内繁利は、日本ハウジングの担当者らを訪ねて話し合い、「保険金で支払えば、債務残金は免除する。」旨の話が日本ハウジングの担当者から出た旨の主張をし、被告河内繁利本人は、右主張に沿う陳述をする(同本人、乙一)。
そこで判断するに、本件証拠(甲一一の1、2、甲一三)によれば、次の事実を認めることができる。
1 日本ハウジングは、被告ら所有の建物に本件貸金を被担保債権とする抵当権を設定するとともに、同建物につき被告らが加入した火災保険の保険金請求権に第一順位の質権を設定していた。
2 日本ハウジングは、右質権者として、安田火災海上保険株式会社に対し、火災保険金振込みの依頼をするとともに、保険金額七六〇万円のほかに、右安田火災が支払う費用保険金(二一六万円)を被告河内繁利、同和江が受取ることに同意する旨記載した承諾書を右安田火災に提出した(甲一一号証の1、2)。
3 平成六年三月二日現在で、前記火災保険金を本件貸金元本に充当すると、本件貸金の残りは、元金一一九四万四九二六円、既発生利息金二〇五万三四八三円、既発生損害金五七五万七〇四八円となるはずであった。
以上の事実は、日本ハウジングは、質権に基づき、安田火災海上保険株式会社に対し、被告らの同意なしに保険金を受領できる立場にあり、逆に、自分が受領できる分を被告らが受取ることに承諾していること、免除する額としては残額はかなり高額になることを意味している。加えて、日本ハウジングの交渉担当者の一人である藤村伸二は、その陳述書(甲一三)において被告河内繁利とは、残金の支払い方法につき交渉したのであって、残金を免除するとか放棄するとかなどの話は一切していない旨述べている。前記認定事実から判断すれば、右藤村の陳述内容は自然であって信用でき、これに反する被告河内繁利の陳述は採用できない。
以上に照らせば、日本ハウジングが本件貸金の残金を免除したことは、なお、認めるに足りないというべきであり、他に右免除の事実を認めるに足りる証拠はない。
二 前記前提事実4ないし6の事実によれば、本件貸金の消滅時効の進行は、平成四年一一月一二日の競売開始決定により中断し、右決定が取り消された平成六年六月八日の翌日から新たに消滅時効の進行が開始したが、その後の催告及び本件訴訟提起により、中断していると認められ、消滅時効は完成していないと解される。
被告らは、右競売開始決定は、取り消されたので、その中断効は有しないものと解すべきであると主張するが、右主張は採用できない。すなわち、民法一五四条により中断の効力が失効するのは、「権利者の請求」あるいは「法律の規定に従わざるによりて」差押等が取り消された場合であり、いわば適法な権利行使とはいえないために時効中断の効力を認め難い場合を規定しているのであって、本件のように、後に火災により目的物が焼失したことを原因とする取消しの場合は取消されるまではいわば適法な権利行使が継続していたといって差し支えないのであって、右中断効が否定される場合とはいえないと解されるからである。
三 以上によれば、原告の請求は全て理由がある。
(裁判官 菊池則明)